信楽に生まれ育った谷穹さんの黒茶盌と、蹲を紹介致します。

窯から引き出す漆黒の引出黒に対して、置き冷ましの黒と呼ばれる味わいのあるマットな黒は、素朴な土味と合間って侘びた風情を漂わせています。黒く焼き締めた技法は、古くは室町時代の擂鉢にも見られ、強度を増すためにしっかりと焼き込まれたのだと思われます。

形は丸いころんとした茶盌の他、筒茶盌もできてきました。あっさりとシンプルな黒い筒茶盌は、嫌味のない、品のある盌です。

それから、谷穹さんが得意とする蹲壺。柔らかなボディに見たことのないような焼き味をまとう蹲の存在感はなかなかのものです。

　201３年の初夏に話は戻ります。信楽で窯を焚く谷さんが、「これまでに無い風合いが出ました」と言って大壺を見せてくれました。
それは良く焼きこまれ、侘びた表情を持つ古信楽のような壺。
　 緊張感のある口元、ややカセた土に火色と焦げが映え、内から湧き出すようなエネルギーを感じさる壺だった。いくつもの大壺を焼き込み試作を重ね、窯の中のポイントを探り、温度を探り、焼成方法を探ってきた成果だ。

　信楽に置いて茶道具としても重用される蹲壺にそれらの経験を活かして焼くようになったのはそれから。
　今も一回の窯に数十個の蹲が入れられる。とことん作り込み、自分のスタイルを 作り上げていくのが谷さんのスタイル。

古信楽の技法だけでなく、当時の美意識と精神性を追求し、ものの存在する場の空気感を創作する谷さんの個性溢れる信楽を是非ご高覧賜りたくご案内申し上げます。

谷　穹